歯科への不信感はどこから生まれるのか考える 埼玉県熊谷市行田市桶川市坂詰歯科
- 根管治療
歯科医師への「不信感」は、どこから生まれるのでしょうか?
日々診療をしていると、
「前の歯医者では、こんな説明をされなかった」
「治療したのに、また悪くなった」
「保険で、もっと良い治療をしてもらえると思っていた」
「高い治療費を払ったのだから、ずっともつと思っていた」
そんな言葉を耳にすることがあります。
もちろん、歯科医師側の説明不足や技術的な問題、対応の問題によって、患者さんが不信感を抱くこともあります。
これは私たち歯科医療者側が真摯に受け止めなければならない問題です。
しかし一方で、長年診療を続けていると、もう一つ大きな原因があることにも気づきます。
それは、
「患者さんが想像している歯科医療」と「実際の歯科医療」の間に、大きな認識の違いがあることです。
つまり、誰かが嘘をついているわけでも、誰かが悪いわけでもありません。
そもそもの「前提」が違っているのです。
今回は、歯科医師への不信感につながりやすい、患者さんに知っていただきたい3つの「思い込み」についてお話しします。
①「保険診療でも、より良い治療を十分に受けられる」という思い込み
日本の健康保険制度は、世界的に見ても非常に優れた制度です。
誰もが比較的少ない自己負担で、必要な医療を受けることができます。
私自身、この制度には大きな価値があると考えています。
しかし、ここで知っていただきたいことがあります。
「保険で治療できる」ことと、「考えられる限りの時間・材料・設備・技術を投入した治療を受けられる」ことは、同じ意味ではありません。
保険診療には、使用できる材料、治療方法、診療報酬、治療にかけられる時間など、さまざまなルールや現実的な制約があります。
これは担当する歯科医師が自由に決めているものではありません。
ところが患者さんが、
「保険診療でも、歯科医師ができることは全部やってくれるはず」
と思っていると、ここに大きな認識のズレが生まれます。
そして後になって自由診療の存在を知ったとき、
「なぜ最初からやってくれなかったのか」
「前の先生は手を抜いていたのではないか」
という不信感に変わることがあります。
しかし、必ずしもそうではありません。
制度の中で行う治療と、制約を少なくしてより多くの時間・設備・材料を投入する治療では、そもそもの条件が違うのです。
この違いを知ることは、歯科医院との信頼関係をつくるうえで、とても大切だと思います。
②「歯は治療すれば元通りになる」という思い込み
これは、ぜひ多くの患者さんに知っていただきたいことです。
歯は、一度大きく失った組織を完全に元通りにすることはできません。
虫歯を削れば、その歯質は戻りません。
神経を取れば、元の生活歯には戻りません。
歯を削って被せ物を入れても、天然の歯そのものが再生したわけではありません。
根管治療をして病気が治癒しても、歯が新品に戻るわけではありません。
私たち歯科医師が行っていることの多くは、
「元通りにすること」ではなく、「壊れてしまった歯を修理し、できるだけ長く使えるようにすること」
なのです。
私はこれを患者さんに、**「修理と延命」**と説明しています。
ところが、
「治療した=完全に治った=もう悪くならない」
と思ってしまうと、数年後に再治療が必要になったとき、
「ちゃんと治療したはずなのに、なぜ?」
「前の治療が悪かったのでは?」
という不信感が生まれます。
しかし、どれほど丁寧に治療しても、人工物には寿命があります。
そして一度治療された歯は、天然の無傷の歯に戻るわけではありません。
だからこそ歯科治療では、
「悪くなったら治せばいい」ではなく、「できるだけ最初から悪くしない」「できるだけ削らない」「できるだけ神経を残す」「治療した歯を長く守る」
という考え方が、とても重要になります。
歯科医療の本当の目的は、「何度でも治すこと」ではありません。
できるだけ治療を繰り返さず、自分の歯で過ごせる時間を長くすること。
私たちはそこを目指しています。
③「治療費には、治療以外のすべてのサービスも含まれている」という思い込み
これも、医療現場では認識の違いが起こりやすい部分です。
歯科医院は医療機関です。
その中心にあるのは、あくまで診査・診断・治療・医学的管理です。
もちろん私たちも、
丁寧に説明すること。
患者さんの不安を聞くこと。
できるだけ待たせないこと。
気持ちよく通院していただくこと。
これらを非常に大切にしています。
しかし、医療機関である以上、患者さんが希望されるすべてのサービスを必ず提供できるわけではありません。
「もっと長時間説明してほしい」
「何度でも無料で相談したい」
「予約時間を自由に変更したい」
「飛び込みで医院にいってもすぐにみてほしい」
「治療とは別の相談にも十分な時間を取ってほしい」
「ホテルの様な特別な接遇サービスをしてほしい」
「治療以外でおもてなしをしてほしい」
「キッズルームを豪華にしてほしい」
「託児サービスはあって当然」
「ポイント集めて景品ほしい」
そうしたご希望すべてに対応しようとすれば、その時間や人員、費用をどこかで負担しなければなりません。
特に保険診療では、患者さんが希望するサービスのすべてに診療報酬が設定されているわけではありません。
ここにも、
患者さんが期待するサービスと、医療制度として提供できる範囲とのズレ
があります。
私たちは患者さんを大切にしたいと思っています。
しかし、
「患者さんを大切にすること」と「すべてのご希望に無料・無制限で対応すること」は同じではありません。
限られた診療時間の中で、一人の患者さんだけではなく、その日に来院されるすべての患者さんに責任を持つことも、医療機関として大切な役割だからです。
不信感を減らすために必要なのは、「正しい前提」を共有すること
歯科医師と患者さんの間に生まれる不信感。
もちろん、その原因が歯科医師側にあることもあります。
説明不足もあります。
技術的な問題もあります。
私たち歯科医師側も、常に反省し、改善していかなければなりません。
しかし一方で、
歯科医療そのものについての認識の違いから生まれている不信感も、決して少なくありません。
保険診療には、制度としての範囲と制約があります。
歯科治療は、天然の歯を新品に戻すものではなく、多くの場合「修理と延命」です。
医療機関では、治療とは別のあらゆるサービスが無制限に提供されるわけではありません。
この3つを患者さんと歯科医師が最初から共有できていれば、防ぐことのできる不信感はたくさんあると私は考えています。
そして私たち歯科医師にも、大きな責任があります。
「患者さんが勘違いしている」で終わらせるのではなく、勘違いが起こらないように、治療前にきちんと説明することです。
何ができるのか。
何ができないのか。
どこまでが保険診療なのか。
自由診療では何が変わるのか。
その歯はどこまで治せるのか。
どのくらい長く使える可能性があるのか。
そして、将来どのような問題が起こる可能性があるのか。
良いことだけではなく、限界まで説明する。
それこそが、患者さんと歯科医師がお互いを信頼して治療を進めるための第一歩だと、私たちは考えています。









