ラバーダム防湿について
新しい機器・材料に精通することは、歯内療法を志す者にとって必要ある。しかし、同時に我々歯科医師は、歯内療法の基盤となる事項を忘れてはならない、ややもすれば。我々は容易に万能薬やスーパーテクニックを求めがちであるが、まず歯内療法の基本的事項を尊守すべきである。たとえば、無菌的処置原則を守らない根管拡大・形成は単に感染経路を拡大しているに過ぎないと言っても過言ではない。
2011年 日本歯内療法学会誌
東京医科歯科大 須田先生「我が国における歯内療法の現状と課題」
序文より抜粋
古来から歯内療法(根の治療)の基本は無菌的治療と言われています。
「ラバーダム防湿」という方法で、無菌的処置を達成できます。
ラバーダム防湿は、上の写真でわかるように、ラバー(ゴム)を使って治療する歯だけを露出させます。
この状態であれば、根の治療をしているときに歯の中に唾液が入りません。ではなぜ、根の治療をするときに唾液を入れないことにこだわるのでしょうか?
治療中歯の中に唾液が入ってしまうと、根の治療後に根尖性歯周炎になる可能性が非常に高いからです。そして根尖性歯周炎になり、治癒しなければ抜歯になってしまう可能性があるからです。
根の治療中に唾液が歯の内部に入ってしまうと…
唾液の中の細菌(虫歯、歯周病細菌類)により歯の内部、神経の残骸などが汚染され感染源となり歯の根の先に膿を作ります。
根の治療中に、歯の中に唾液(悪玉細菌)が入ると、再び感染を起こし、治療を行っても症状は一向に改善しません。根の治療を行っても、痛みが長期化しなかなか症状が改善しないということを経過したことはありませんか?このことも、治療中の細菌感染が原因かもしれません…だから、ラバーダム防湿は非常に重要なのです。
当医院では治療中に精密な根管治療を行う時は必ず、ラバーダム防湿を行います。ラバーダム防湿を行わなければ、マイクロスコープを使用しても全く意味をなしません。
しかし、須田先生の論文によると日本歯内療法学会会員(根の治療の専門家)で必ず毎回ラバーダム防湿を行っている歯科医師は約25%。一般歯科医師が10%以下とのことでした。実は、私も以前はラバーダム防湿を行っていませんでした。
ラバーダム防湿は最新の技術ではなく、1800年代後半から存在している技術。難易度の高いものではない。コストもそこまではかからない。
なぜ、ラバーダム防湿は根管治療の基本であるのに、普及していないのでしょうか?
様々な要因があると思いますが…
- 先人の歯科医師がラバーダム防湿を使う文化がなく、後輩歯科医師がこれを見てきた。
- そもそも、めんどうくさい。
- 従来の根管治療は治療回数がかかり、毎回使うとコストがかかってしまう。
- 保険診療では、回数がかかるほど医院は損をしてしまう。
- 歯科医師が根の治療に本気になっていないから。
- 歯科医師が歯を残すことに全力になれていないから。
私はこのようなことが原因に挙げられると思います。